授業観察完全ガイド
ICT支援員のための授業観察実践マニュアル。観察のポイント、記録方法、インタビュー技法、提案への繋げ方まで、現場で使える具体的なノウハウを詳しく解説
目次
1. 授業観察の目的と意義
実態把握、課題発見、改善提案、信頼関係構築
2. 観察前の準備
事前準備チェックリスト、教員との事前コミュニケーション
3. 授業観察の視点とポイント
5つの観察視点、ICT活用チェック項目
4. 効果的な記録方法
時系列記録法、観点別記録法、自由記述法
5. 授業の分析方法
授業分析の4ステップ、KPT法
6. 事後インタビュー(雑談)の技法
インタビューの基本姿勢、5つのステップ、コーチング技法
7. 観察から提案への繋げ方
提案作成の5ステップ、提案書フォーマット
8. 授業観察フレームワーク
SAMRモデル、TPACKモデル、主体的・対話的で深い学び
9. 倫理的配慮と注意点
個人情報保護、教員・児童生徒への配慮
10. 参考資料・引用元
文部科学省、研究機関、理論・モデル、書籍
1. 授業観察の目的と意義
授業観察の目的
授業観察は、ICT支援員が教員の授業実践を理解し、効果的な支援を提供するための重要な活動です。
主な目的
1. 実態把握
- 教員のICTスキルレベルの把握
- 児童生徒のICT活用状況の確認
- 授業におけるICT機器の活用状況
- 授業の流れと指導スタイルの理解
2. 課題発見
- ICT活用における課題の特定
- 技術的なトラブルの発見
- 効率化できる場面の発見
- 児童生徒の学習上の困難点の把握
3. 改善提案
- より効果的なICT活用方法の提案
- 授業改善のアイデア提供
- 新しいツールやアプリの紹介
- 教員の負担軽減策の提案
4. 信頼関係構築
- 教員との協働関係の強化
- 教員のニーズの理解
- 支援の方向性の共有
- 継続的な支援体制の確立
参考
文部科学省「教育の情報化に関する手引(令和元年12月)」では、ICT支援員の役割として「授業におけるICT活用の支援」「教員研修の企画・実施支援」が明記されており、授業観察はこれらの役割を果たすための基盤となる活動です。
2. 観察前の準備
事前準備チェックリスト
教員との事前コミュニケーション
- 観察の目的と意図を説明する
- 観察する授業の概要を聞く(教科、単元、学習目標)
- 教員が気になっている点や支援してほしい点を確認
- 授業中の立ち位置や児童生徒への関わり方を相談
- 記録方法(メモ、写真撮影等)の許可を得る
授業情報の収集
- 学習指導案や授業計画を確認(可能な場合)
- 使用するICT機器やアプリを確認
- 児童生徒の情報(学年、人数、特性)を把握
- 教室環境(座席配置、機器配置)を確認
- 前回の授業内容や学習の流れを把握
観察ツールの準備
- 観察記録シート・フォーマット
- 筆記用具(複数色のペン)
- タブレットやノートPC(記録用)
- タイマー・ストップウォッチ
- カメラ(許可を得ている場合)
ポイント
観察の目的を明確に共有する:教員に「評価するため」ではなく「より良い支援をするため」に観察することを伝え、信頼関係を築くことが重要です。
3. 授業観察の視点とポイント
授業観察では、多面的な視点で授業を捉えることが重要です。ICT活用だけでなく、授業全体の流れや児童生徒の様子も観察します。
観察の5つの視点
視点1:教員の指導行動
観察ポイント
- 導入・展開・まとめの構成:授業の流れは適切か
- 発問の質:児童生徒の思考を促す発問ができているか
- 説明の明確さ:指示や説明は分かりやすいか
- 机間指導:個別支援は適切に行われているか
- 時間配分:授業時間の使い方は適切か
ICT関連の観察ポイント
- ICT機器の操作スキル(スムーズに操作できているか)
- トラブル対応力(問題が起きた時の対処)
- ICTを活用する目的の明確さ
- ICT活用と従来型指導のバランス
視点2:児童生徒の学習活動
観察ポイント
- 学習への集中度:児童生徒は集中して取り組んでいるか
- 理解度:学習内容を理解できているか
- 参加度:全員が活動に参加できているか
- 協働学習の様子:グループ活動は機能しているか
- 思考の深まり:深い学びにつながっているか
ICT関連の観察ポイント
- ICT機器の操作スキル(児童生徒の習熟度)
- ICTを使った情報収集・整理・発信の様子
- 協働的な学びでのICT活用(共有・協働編集等)
- 困っている児童生徒はいないか
- ICT活用による学習効果(理解促進、興味関心の向上等)
視点3:ICT機器・環境
観察ポイント
- 機器の動作状況:タブレット、電子黒板等は正常に動作しているか
- ネットワーク環境:Wi-Fi接続は安定しているか
- アプリ・ソフトウェア:使用しているツールは適切か
- 教室環境:機器配置、配線、プロジェクター投影状況
- 充電状況:バッテリー切れの端末はないか
チェックポイント
- トラブルの発生(フリーズ、接続不良、操作ミス等)
- 機器の準備・片付けにかかる時間
- 代替手段の有無(ICTが使えない場合の対応)
視点4:学習内容・教材
観察ポイント
- 学習目標の達成度:本時の目標は達成されているか
- 教材の適切性:教材は児童生徒の実態に合っているか
- 課題の質:思考を促す課題設定になっているか
- 評価方法:学習の成果を適切に評価しているか
ICT関連の観察ポイント
- デジタル教材の活用(デジタル教科書、動画、シミュレーション等)
- ICT活用による教材の効果(視覚化、個別化、協働化等)
- 学習内容とICT活用の適切性(必然性があるか)
視点5:授業の時間構成
観察ポイント
- 導入(5〜10分):学習課題の提示、動機付け
- 展開(30〜35分):個別学習、グループ学習、発表
- まとめ(5〜10分):振り返り、次時の予告
時間配分のチェック
- ICT機器の準備・起動に時間がかかりすぎていないか
- 説明時間と活動時間のバランスは適切か
- 時間内に授業が終わるか(時間オーバーしていないか)
参考フレームワーク
授業研究において、授業観察の視点として「教師の働きかけ」「子供の学習活動」「教材・教具」「時間配分」「評価」の5つが一般的に用いられています。これらの視点は、国立教育政策研究所などの研究成果でも示されており、授業を多面的に捉えるための基本的なフレームワークとなっています。
参考: 国立教育政策研究所
4. 効果的な記録方法
記録の3つの方法
方法1:時系列記録法
授業の流れに沿って、時刻とともに出来事を記録する方法です。
記録例
| 時刻 | 教師の活動 | 児童生徒の様子 | ICT活用 | 気づき・メモ |
|---|---|---|---|---|
| 13:45 | 学習課題を電子黒板に提示 | 全員が画面を注視 | 電子黒板 | 画面が見やすく効果的 |
| 13:50 | タブレットで調べ学習の指示 | スムーズに検索開始 | タブレット、検索 | 検索スキルが身についている |
| 13:55 | 机間指導、個別支援 | 2名が操作に困っている様子 | - | 操作支援が必要か |
メリット:授業の流れが分かりやすい、時間配分が可視化できる
デメリット:記録に時間がかかる、全体を俯瞰しにくい
方法2:観点別記録法
あらかじめ設定した観点ごとに記録する方法です。
記録フォーマット例
【教師の指導】
- ICT機器の操作:スムーズ(◎)/ やや不慣れ(○)/ 困難(△)
- 説明の明確さ:分かりやすい(◎)/ 普通(○)/ 分かりにくい(△)
- 個別支援:十分(◎)/ やや不足(○)/ 不足(△)
【児童生徒の学習】
- ICT操作スキル:高(◎)/ 中(○)/ 低(△)
- 学習への集中度:高(◎)/ 中(○)/ 低(△)
- 協働学習:活発(◎)/ やや活発(○)/ 不活発(△)
【ICT環境】
- 機器の動作:正常(◎)/ やや不安定(○)/ トラブルあり(△)
- ネットワーク:安定(◎)/ やや不安定(○)/ 不安定(△)
メリット:観点が整理されている、記録しやすい、比較しやすい
デメリット:観点以外の気づきを見逃す可能性がある
方法3:自由記述法
気づいたことを自由に記述する方法です。
記録例
・導入で動画を活用し、児童の興味を引くことに成功。全員が集中して視聴していた。
・展開では、タブレットを使った協働学習を実施。グループで話し合いながら資料を作成していたが、一部のグループで操作に時間がかかり、話し合いの時間が短くなっていた。
・教師は積極的に机間指導を行い、困っている児童に声をかけていた。ただし、ICTトラブルへの対応に時間を取られ、学習内容への支援が十分にできていないようだった。
・まとめでは、各グループの発表を電子黒板で共有。他のグループの作品を見ることで学びが深まっている様子が見られた。
【改善提案の可能性】
・操作手順の動画マニュアルを作成し、児童が自分で確認できるようにする。
・よくあるトラブルへの対処法を事前に児童に伝えておく。
メリット:柔軟に記録できる、詳細な状況を記録できる
デメリット:記録に時間がかかる、整理が必要
記録時の注意点
- 事実と解釈を分ける:「児童が集中していない」ではなく「児童Aが窓の外を見ていた」と事実を記録
- 具体的に記録する:「良かった」ではなく「どのように良かったか」を具体的に
- 肯定的な視点を持つ:欠点だけでなく、良い点も記録する
- 個人情報に配慮:児童生徒の実名は記録しない(A児、B児等の記号を使用)
- 写真・動画撮影:事前に許可を得た上で、個人が特定されないよう配慮
参考
教育学における授業研究では、「3つの観察法」(量的観察、質的観察、参与観察)を組み合わせることで、多面的な授業理解が可能になるとされています。量的観察では数値データを、質的観察では記述的データを、参与観察では観察者自身が授業に関わりながら観察を行います。
5. 授業の分析方法
授業分析の4ステップ
ステップ1:記録の整理
- 時系列で記録を整理する
- 観点別に分類する(教師の指導、児童生徒の学習、ICT活用等)
- 重要なポイントに印をつける
ステップ2:良い点の抽出
まずは肯定的な側面に注目します。
- 効果的だったICT活用の場面
- 児童生徒が主体的に学習していた場面
- 教師の工夫や配慮が見られた場面
- 学習目標の達成に貢献した要素
良い点の例
- ✓ 動画教材の活用により、児童の理解が深まった
- ✓ タブレットでの協働学習がスムーズに行われていた
- ✓ 電子黒板での提示により、全員が課題を共有できていた
ステップ3:課題の特定
改善の余地がある点を特定します。
- ICT活用で困難が生じた場面
- 時間が不足した場面
- 児童生徒の理解が十分でなかった場面
- トラブルが発生した場面
課題の例
- △ 機器の起動に時間がかかり、学習時間が圧迫された
- △ 一部の児童がアプリの操作に困っていた
- △ Wi-Fi接続が不安定で、作業が中断した
ステップ4:改善案の検討
課題に対する具体的な改善策を考えます。
改善案検討のフレームワーク
| 課題 | 原因 | 改善案 | 期待される効果 |
|---|---|---|---|
| 機器起動に時間がかかる | 授業開始時に一斉起動している | 休み時間に事前起動しておく | 学習時間を5分確保できる |
| 一部児童が操作に困る | 操作手順が分かりにくい | 操作マニュアル動画を作成 | 自己解決力が向上する |
| Wi-Fi接続が不安定 | 同時接続台数が多い | 一部をオフライン作業に変更 | 安定した学習環境を確保 |
分析の視点:KPT法
KPT法は、Keep(良かったこと)、Problem(課題)、Try(試したいこと)の3つの視点で振り返る手法です。
Keep(継続)
効果的だったICT活用や指導方法
- 動画教材の活用
- 協働学習でのタブレット活用
- 個別支援の丁寧さ
Problem(課題)
改善が必要な点
- 機器起動の時間
- 一部児童の操作困難
- Wi-Fi接続の不安定さ
Try(挑戦)
次回試したい改善策
- 事前起動の習慣化
- 操作マニュアル動画の作成
- オフライン作業の導入
参考
秋田喜代美氏(東京大学教授)は、授業研究において「事実に基づいた分析」と「肯定的な視点」の重要性を強調しています。批判ではなく、より良い実践に向けた建設的な分析が重要です。
参考: 秋田喜代美(2006)「授業研究と教師の成長」岩波書店
6. 事後インタビュー(雑談)の技法
授業観察後の教員とのインタビュー(雑談)は、信頼関係を築き、効果的な支援につなげるための重要な機会です。形式的なインタビューではなく、自然な会話の中で情報を収集します。
インタビューの目的
- 教員の授業に対する考えや意図を理解する
- 教員が感じている課題やニーズを把握する
- 観察では分からなかった背景や文脈を知る
- 信頼関係を深め、今後の支援の方向性を共有する
インタビューの基本姿勢
1. 肯定的・受容的態度
- まずは教員の努力や工夫を認める
- 批判的な態度は避ける
- 「こうすべき」ではなく「一緒に考える」スタンス
良い例:「動画教材の使い方、とても効果的でしたね。児童が集中して見ていました。」
悪い例:「動画は良かったですが、説明が長すぎましたね。」
2. 傾聴の姿勢
- 教員の話を遮らず、最後まで聞く
- 相槌やうなずきで共感を示す
- 教員の言葉を言い換えて確認する(リフレクション)
教員:「今日は時間が足りなくて、まとめがあわただしくなってしまいました。」
支援員:「そうだったんですね。時間配分に課題を感じられたんですね。」
3. オープンな質問
- 「はい/いいえ」で答えられない質問をする
- 教員の考えや感情を引き出す質問を心がける
- 誘導的な質問は避ける
良い例:「今日の授業で、特に工夫された点はどこですか?」
悪い例:「タブレットは効果的でしたよね?」(誘導的)
インタビューの流れ
ステップ1:感謝と肯定的フィードバック(2〜3分)
まずは授業を見せていただいたことへの感謝を伝え、良かった点を具体的にフィードバックします。
「今日は授業を見せていただき、ありがとうございました。動画教材の活用が素晴らしく、児童が興味を持って学習に取り組んでいましたね。」
ステップ2:教員の振り返りを聞く(5〜10分)
教員自身の授業に対する評価や感想を聞きます。
効果的な質問例
- 「今日の授業で、特にうまくいったと感じた点はどこですか?」
- 「児童の反応はいかがでしたか?」
- 「今日の授業で工夫された点を教えていただけますか?」
- 「授業をされていて、どんなことを感じられましたか?」
ステップ3:課題やニーズを把握する(5〜10分)
教員が感じている課題や、支援してほしいことを聞き出します。
効果的な質問例
- 「何か困ったことや、気になったことはありましたか?」
- 「もっとこうできたら良かったと思うことはありますか?」
- 「次回、もっと工夫してみたいと思うことはありますか?」
- 「ICT活用で、何か支援してほしいことはありますか?」
ステップ4:対話的な提案(5〜10分)
教員の課題やニーズに対して、押し付けにならないよう提案します。
提案の技法
- 許可を求める:「もしよろしければ、こんな方法もあるのですが、いかがでしょうか?」
- 選択肢を提示する:「AとBの方法がありますが、どちらがやりやすそうですか?」
- 一緒に考える:「どうしたら時間を短縮できるか、一緒に考えてみませんか?」
- 小さく始める:「まずは次回、このアプリを少しだけ試してみませんか?」
ステップ5:今後の支援の確認(2〜3分)
今後の支援内容や連絡方法を確認し、継続的な関係を築きます。
「次回の授業でも、もしよろしければお手伝いさせていただけますか?」
「何かお困りのことがあれば、いつでもお声がけください。」
インタビューの注意点
やってはいけないこと
- 評価的な態度:「それは良くないですね」「もっとこうすべきです」
- 一方的な提案:教員の意見を聞かずに、自分の考えを押し付ける
- 否定的な言葉:「でも」「しかし」「だけど」などの接続詞で否定する
- 専門用語の多用:教員が理解しにくい専門用語を使う
- 長時間の拘束:教員の時間を過度に奪う(20〜30分程度が目安)
インタビューを成功させるコツ
- タイミングを考慮する:授業直後は避け、落ち着いたタイミングで
- 場所を選ぶ:職員室ではなく、落ち着いて話せる場所で
- 記録を取る:メモを取りながら話を聞く(許可を得てから)
- ポジティブな雰囲気:笑顔と明るいトーンで
- 継続的な関係:一回きりで終わらせず、継続的に関わる
参考
コーチング理論では、「ティーチング」(教える)ではなく「コーチング」(引き出す)の重要性が強調されています。教員自身が答えを見つけられるよう、質問を通じて支援することが効果的です。
参考: 鈴木義幸(2017)「コーチングが人を活かす」ディスカヴァー・トゥエンティワン
7. 観察から提案への繋げ方
提案作成の5ステップ
ステップ1:観察記録の整理と分析
- 観察記録を読み返し、重要なポイントを整理する
- 良かった点と課題を明確にする
- 教員のニーズと照らし合わせる
ステップ2:提案内容の優先順位づけ
全ての課題を一度に解決することは困難です。優先順位をつけます。
優先順位の判断基準
| 優先度 | 判断基準 | 例 |
|---|---|---|
| 高 | ・教員が困っている ・学習効果が大きい ・すぐに実行可能 |
機器起動の時短方法、よくあるトラブルの解決法 |
| 中 | ・ある程度の準備が必要 ・効果が中程度 ・教員の関心がある |
新しいアプリの紹介、操作マニュアルの作成 |
| 低 | ・長期的な取り組み ・大きな変更が必要 ・教員の関心が低い |
授業スタイルの大幅な変更、高度なICT活用 |
ステップ3:具体的な提案の作成
教員が実行しやすい、具体的な提案を作成します。
提案書フォーマット例
【授業観察に基づく支援提案】
日時:2025年○月○日(○)○時間目
授業:○年○組 ○○科「○○」
観察者:ICT支援員 ○○
1. 授業の良かった点
- 動画教材の活用により、児童の理解が深まっていました
- タブレットを使った協働学習がスムーズに行われていました
2. 課題と改善提案
| 課題 | 提案内容 | 期待される効果 | 実施方法 |
|---|---|---|---|
| 機器起動に5分かかる | 休み時間に事前起動 | 学習時間を5分確保 | 日直に起動を依頼する役割を追加 |
| 一部児童が操作に困る | 操作マニュアル動画を作成 | 自己解決力の向上 | 支援員が動画を作成し、クラウドで共有 |
3. 支援員ができること
- 操作マニュアル動画の作成(来週までに作成可能)
- 次回授業での機器準備のサポート
- トラブル対応マニュアルの作成
4. 次回の打ち合わせ
○月○日(○)の放課後、10分程度お時間をいただけると幸いです。
ステップ4:提案の伝え方
効果的な伝え方
書面での提案
メリット:内容を整理して伝えられる、後で見返せる
注意点:簡潔に、専門用語を避けて、視覚的に分かりやすく
タイミング:授業翌日〜2日後にメールやプリントで渡す
口頭での提案
メリット:教員の反応を見ながら調整できる、対話的
注意点:ポイントを絞って、長時間にならないように
タイミング:教員が落ち着いているタイミングで
実演を交えた提案
メリット:具体的でイメージしやすい、質問に即座に答えられる
注意点:準備をしっかり行う、時間を確保する
タイミング:事前に時間を確保してもらう
ステップ5:実施とフォローアップ
- 教員が提案を実行する際にサポートする
- 実施後の様子を観察し、効果を確認する
- 必要に応じて調整や追加支援を行う
- 成果を共有し、次の改善につなげる
提案を受け入れてもらうコツ
1. 教員主体の提案にする
「こうしたらどうでしょうか」ではなく「先生はどうお考えですか」と、教員の意見を尊重します。
2. 小さく始める
大きな変更は抵抗されやすいため、まずは小さな改善から始めます。
3. 成功事例を示す
他のクラスや学校の成功事例を紹介し、イメージを持ってもらいます。
4. 支援を約束する
「一緒にやりましょう」と、教員一人に任せず、支援することを明確にします。
提案が受け入れられない場合
提案が受け入れられないこともあります。その場合は:
- 無理に押し付けない(信頼関係を損なう)
- 理由を聞く(「どんな点が難しそうですか?」)
- 別の提案を考える(「では、こんな方法はいかがでしょうか」)
- 時期を待つ(タイミングが合わないこともある)
参考
ロジャーズの「イノベーション普及理論」によれば、新しい取り組みが普及するには「相対的優位性」「適合性」「複雑性」「試行可能性」「観察可能性」の5つの要素が重要です。ICT活用の提案においても、これらの要素を考慮することが効果的です。
参考: Rogers, E. M. (2003). Diffusion of Innovations (5th ed.). Free Press.
8. 授業観察フレームワーク
授業観察には、様々なフレームワークが存在します。目的に応じて使い分けることで、効果的な観察が可能になります。
代表的なフレームワーク
1. SAMRモデル(ICT活用の段階)
Dr. Ruben Puenteduraが提唱した、ICT活用の4段階を示すモデルです。
強化(Enhancement)
従来の方法をICTで代替するが、機能的な変化はない
例:紙のプリントをPDFで配布
ICTによって機能的な改善がある
例:デジタルドリルで即座にフィードバック
変革(Transformation)
ICTによって課題のデザインが大きく変わる
例:協働編集機能で複数人が同時に文章作成
ICTによって従来は不可能だった学習が可能になる
例:海外の学校とリアルタイムで交流授業
活用方法:観察した授業のICT活用がどの段階にあるかを分析し、より高度な活用への支援を検討します。
2. TPACKモデル(教師に必要な知識)
Mishra & Koehlerが提唱した、教師に必要な3つの知識の統合モデルです。
CK - Content Knowledge(教科内容知識)
教科・科目の内容に関する知識
PK - Pedagogical Knowledge(教育方法知識)
教授法や学習理論に関する知識
TK - Technological Knowledge(技術知識)
ICT機器やアプリの操作・活用に関する知識
TPACK = これら3つの知識の統合
効果的なICT活用授業には、教科内容・教育方法・技術の3つの知識を統合的に活用することが必要です。
活用方法:教員がどの知識が不足しているかを分析し、それに応じた支援(技術研修、教材提供、授業デザイン支援等)を行います。
3. 主体的・対話的で深い学び(学習指導要領)
文部科学省の学習指導要領で示された、これからの学びの3つの視点です。
主体的な学び
学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる学び
観察ポイント:児童生徒が自ら課題を見つけ、解決に向けて取り組んでいるか
対話的な学び
子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手がかりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める学び
観察ポイント:対話や協働を通じて、考えが深まっているか
深い学び
習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう学び
観察ポイント:知識が関連付けられ、思考が深まっているか
活用方法:ICT活用が「主体的・対話的で深い学び」の実現にどう貢献しているかを分析し、より効果的な活用を提案します。
参考文献
- Puentedura, R. (2006). SAMR Model. http://www.hippasus.com/rrpweblog/
- Mishra, P., & Koehler, M. J. (2006). Technological Pedagogical Content Knowledge: A Framework for Teacher Knowledge. Teachers College Record, 108(6), 1017-1054.
- 文部科学省(2017)「学習指導要領」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm
9. 倫理的配慮と注意点
個人情報保護
記録の取り扱い
- 観察記録に児童生徒の実名を記載しない(A児、B児等の記号を使用)
- 記録は厳重に管理し、第三者に見せない
- 写真・動画撮影は必ず事前に許可を得る
- 撮影した写真・動画の目的外使用は厳禁
- 記録は一定期間後に適切に廃棄する
教員への配慮
信頼関係の維持
- 観察の目的と方法を事前に説明し、同意を得る
- 評価者としてではなく、支援者としての立場を明確にする
- 観察内容を他の教員や管理職に無断で報告しない
- 批判的・否定的な態度は避け、建設的な支援を心がける
- 教員の努力や工夫を認め、尊重する
児童生徒への配慮
児童生徒の権利保護
- 授業の邪魔にならないよう、目立たない位置で観察する
- 特定の児童生徒をじっと見つめない
- 観察中に児童生徒に話しかけない(授業の妨げになる)
- 児童生徒の作品や成果物を勝手に撮影しない
- 児童生徒のプライバシーを尊重する
観察の限界を認識する
認識すべきこと
- 観察は主観的:観察者の視点や経験によって見え方が変わる
- 一回の観察では不十分:1回の授業だけで全てを判断しない
- 文脈の理解が必要:学級の実態、児童生徒の特性、これまでの学習の経緯を理解する
- 支援員の専門性の範囲:教育内容や教授法についての専門家ではないことを自覚する
参考
文部科学省「個人情報保護法に基づく個人情報の適正な取扱い」では、学校における個人情報の取り扱いについて詳細なガイドラインが示されています。
10. 参考資料・引用元
文部科学省
研究機関
- 国立教育政策研究所 - 授業研究に関する研究成果
理論・モデル
- Puentedura, R. (2006). SAMR Model. http://www.hippasus.com/rrpweblog/
- Mishra, P., & Koehler, M. J. (2006). Technological Pedagogical Content Knowledge: A Framework for Teacher Knowledge. Teachers College Record, 108(6), 1017-1054.
- Rogers, E. M. (2003). Diffusion of Innovations (5th ed.). Free Press.
書籍
- 秋田喜代美(2006)「授業研究と教師の成長」岩波書店
- 鈴木義幸(2017)「コーチングが人を活かす」ディスカヴァー・トゥエンティワン